養育費の履行確保に向けた法律の見直しについて

この記事は、令和6年7月15日現在の法律に基づいて記載しています。

今後の法改正等により内容に相違が生じる場合にも、責任は負いませんのでご了承ください。

民法等の一部が改正されます

法務省民事局では、家族法制に関わる民法等の一部改正が進められています。この検討は、令和3年3月の第1回会議にはじまり、数年に渡って行われており、令和6年3月に法律案が閣議決定、令和6年5月に成立・交付となりました。今後、公布から2年以内に施行予定です。

(※令和6年7月15日現在、新法施行前です)

養育費の履行確保に向けた見直しについて

改正にあたり、検討内容のひとつが養育費。

当HPでも言及しているとおり、離婚時の養育費の取決率が低いことが課題でした。

そこで、新法では、養育費の取決めをしないで離婚した場合でも、「法定養育費」として一定の養育費請求権を認めること、その権利(養育費債権)に先取特権を付与すること、としました。

これにより、新法施行後は、養育費の取決めがない場合も、養育費請求が可能になります。また、公正証書や調停調書等の債務名義がなくても、差押えが可能になります。

「法定養育費」の金額

ただし、注意すべきは、その金額です。

調停や審判で決められる金額と、法定養育費の額では、人によっては大きく違う場合が考えられるでしょう。

通常の協議や家庭裁判所の調停・審判では、双方の収入を「養育費算定表」に当てはめた額を検討のベースとしています。つまり、双方の収入状況に応じて、裁判所が決めた「払いすぎずもらい過ぎない」妥当な額を考えていきます。

それに対して、改正法での「法定養育費」は、

「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて政省令で定めるところにより算定した額」

とされています。つまり、双方の収入は勘案されず、子の年齢(14才以下か15才以上か)とその人数に応じて一律に支払われることになるのではないかと思われます。

先取特権について

もうひとつの改正点である先取特権について。

先取特権というのは、他の債権者を差し置いて、債務者の総財産から、債権回収を先取りできる権利のことをいいます(詳しくは省略します)。

「法定養育費」に先取特権が与えられることで、法定養育費は優先して回収できる、すなわち先取特権にもとづいて差押ができるようになります。ちなみに現行は、養育費に先取特権がないので、差押えをするには債務名義が必要です。離婚の際に公正証書等を作成しなかった場合は、家庭裁判所で作成する調停調書や審判書等の債務名義を得る必要があります。この調停の手続きが、時間的・精神的負担になっています。

この債務名義が、新法施行後は「法定養育費」の請求に関しては、必要なくなるということになります。

なお、請求された側は、「支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができる」とされています。

ちなみに、義務者がサラリーマンならその給料を差押えることが多いです。一度差押えがされると、その差押えが解除されるまでは(養育費の終期までずっと)、義務者の毎月の給料は、養育費分が差し引かれた金額が振り込まれることになります。

まとめ

以上、「家族法制の見直しに関する要綱案」についてでした。

詳細はこちらを参照ください。

法務省:「家族法制の見直しに関する要綱案」(令和6年1月30日) (moj.go.jp)

新法施行後も、公正証書による養育費取決めの必要性は変わりません。

また、各自治体による養育費確保のための積極的な支援は、ますます拡大しています。

離婚の際の取決めについてご質問がありましたら、お気軽にお問い合わせください。