知らないうちに離婚届が出されていた!戸籍を元通りにする手続きと、不受理申出制度について。

行政書士として開業するまでの2年半、区役所の総合受付で働いていました。大安の日や11月22日(いい夫婦の日)、一粒万倍日(新しいことを始めるのに縁起が良い日)、天赦日(同じくラッキーデーだそう)には婚姻届の提出にいらっしゃる方がひときわ多く、一日に何十組もご案内したものです。

たいていの場合、婚姻届を出すときには夫婦そろっていらっしゃいます。ですので、どちらかが結婚したくないのに、勝手に婚姻届が出されてしまうことはほぼないはずです。

ところが、離婚届の場合はそうではありません。知らないうちに離婚届が出されていた、という事例が後を絶たない。なぜでしょう?

勝手に離婚届が出されてしまうパターンには2つあります。

パターン1:署名押印を偽造されてしまった

パターン2:確かに自分が署名押印はしていたけれど、提出していいとは言っていない

パターン1の場合、区役所は離婚届を受理する際には必要事項が埋まっているかなどの形式的なことしか見ていないので、偽造された署名押印でも問題なく受理されてしまうために起こります。そして一度受理されてしまうと、戸籍に記載されて、正式に離婚が成立したということになってしまいます。ちなみに、これは完全に犯罪です(有印私文書偽造罪、偽造私文書行使罪、公正証書原本不実記載罪など)。さらに、そのままほかの人と再婚してしまうと、重婚罪です。

パターン2の場合は、いろいろな状況が考えられます。

そもそも、離婚する気もないのにどうして離婚届にサインをしているの?という疑問をお持ちの方もいるかもしれません。けれど、この状況はけっこうあるのです。一番多いのが、浮気発覚後のやり直しの話し合いをするなかで、「もう一度浮気をしたら離婚だよ」という心理的圧迫のために、出す気はないけれど書かせた離婚届。引き出しの中に何枚も未提出の離婚届が入っているシーン、ドラマなどで見たことありませんか。

ほかにも、離婚に向けて話し合っていたけれど、相手に情が出てきた、もらえる養育費が少ない/支払う養育費が多すぎるから離婚を思いとどまろうと思い始めた、子供の進学に合わせて離婚届を出そうと思っていた、などなど、記入していた離婚届の提出を保留にしているケースはたくさんあります。

勝手に出された離婚届は無効です。けれど、いったん受理されてしまうと、いくら区役所に事情を説明しても、変更された戸籍をもとに戻してもらうことはできません。そのまま放置しておくと、相手が別の人と婚姻届を出すこともできてしまいます。

では、もとの状態に戻すにはどうすればいいのでしょうか。

この場合、裁判所での手続きが必要になってきます。具体的には、家庭裁判所に調停を申し立てて「離婚届は無効でした」ということに合意する「合意に相当する審判」というものをもらう必要があります。ただ、勝手に出した相手が「婚姻届が無効である」ことに同意しないことも多く、その場合は訴訟を起こすことになります。つまり、一度出された離婚届を覆すのは、かなり大変なのです。

こういうことにならないためにも、事前に予防しておくことがとても大事です。

少しでも不安があるなら、「離婚届が出されても受理しないでください」という意味の「不受理申出」をしておきましょう。用紙は区役所に用意されています。この不受理申出制度は、以前は有効期間が6か月でしたが、今は一度出しておけば取り下げをするまでずっと有効です。

正式に離婚届を出すときには、いったん不受理の申し出を取り下げてから、離婚届を提出します。