リビングは、人々が集まっては散っていく「教会の前の広場」
これは、小児精神科の先生に教えていただいた言葉です。
『リビングは、家の中心地として家族が集っては、それぞれのところに散っていくための拠点。じっと留まるところではない。人が動くと空気も動くことで、広場にふさわしいすがすがしさにつながるんだよ。でも、人が停滞すると、空気も雰囲気も停滞するんだ。』
突然ですが、皆さんは自宅に、自分の部屋やパーソナルスペースがありますか?私にはありません。
我が家の個室は、大きい順に、夫・娘・息子・夫婦の寝室、という割り振りです。私の部屋はないので、洋服は踊り場の納戸に棚とポールをつけて収納しています。リビングの収納の一部が私の本専用です。
私のように、子どもと夫には部屋があるのに、女の人には個室はないという家、めずらしくないですよね。
そんな家でよく聞くのが「パートナーの居場所問題」。パートナーがダイニングテーブルやソファにどっしりと腰を落ち着けて動こうとしない、というお悩みです。これは、定年後の夫婦のお悩み相談のベスト3に入っているそうですが、パートナーが発達障害、特に「過集中型」の場合にも、夫婦関係をぎくしゃくさせる理由になってきます。
我が家の場合を・・・。
夫は「腰が重い」タイプなので、おはようと起きてきてダイニングテーブルに直行して、そのままiPadで調べ物や勉強を始めたきりほとんど動かない、ということも。そうなると、ダイニングテーブルは夫の基地です。しゃべらなくても背中から、「気」を発しています。
「そんなときにはその場から離れましょう」、が、定番のアドバイスですよね。でも、家の中に自分のスペースがなければ難しい。かといって、いちいち外に出掛けるわけにもいきません。
これに悩んだ私が、ドクターに相談した時の答えが、タイトルのとおりなのです。先生がおっしゃったのはこんなことでした。
「リビングは、人々が集まっては散っていく『教会の前の広場』なんだよ。教会前っていうのは、人が自然と集まってきて、話したりイベントしたりするけれど、それがすんだら自分の場所に帰っていくよね。」
「人が動くということは、空気も動くんだ。そうやって、いつもすがすがしい新しい空気を流すことができる。教会前の広場っていうのは、何かをじっとする場所じゃないんだよ。」
この説明に、ものすごく気持ちが軽くなったのを覚えています。自分が感じるモヤモヤをうまく言葉にしてくれたことと、何より自分の思いに共感してもらえたことが本当に嬉しかった。
そして、「夫がリビングにずっといることに圧迫感を感じるときは、ちょっと動いてねって言ってもいいんだ」と思うようになりました。今までのように、ただ黙ってイライラしていないで「今はちょっと集中したいからひとりになりたいな」と伝えてみる。
すると、夫の方にも少しずつ変化が見られるようになりました。なんだ、最初からそうしていればよかったな、と思うのですが、夫婦関係なんてそんなものです。そこはトライアンドエラーということで。
もしリビングを占領するパートナーに、空気や気持ちが圧倒されてつらいなあ、と思う方がいらしたら、「教会の前の広場」をイメージした空間づくりや声掛けはいかがでしょう?
ところで、自分が行き詰っていることを、自分だけで解決するのって難しいです。特に家庭は密室なので、夫婦で意見がすれ違っている状態だと、自分にはだれも見方がいないような気持ちになってしまいがちです。
そんなときは、できれば家の外の誰かに話をしてみましょう。共感をしてもらうことで、心がずいぶんと軽くなることが多いです。自分の気持ちを、パートナーに伝わりやすい言葉で表現してくれることもありますよ。